Twitter にて「Tychonoff の定理 が選択公理なしで証明された」という主張を見た.
どのような体系で証明されたのかよくわからないが,もし,その体系が ZF の部分体系(もしくはそれと同等の証明能力を持つ体系)であって,また仮に証明されたのが事実だとすれば,その系として「ZF が矛盾する」ことを示す.以下では選択公理は ACと略記する.
次の事実を使う.
事実1.
以下の2つは同値
- ZF が矛盾する
- ZF + \(\lnot\)AC が矛盾する
事実2.
ZF 上で AC とTychonoff の定理 は同値.
さて,ZF の部分体系(もしくはそれと同等の証明能力を持つ体系)で「Tychonoff の定理 が選択公理なしで証明された」と仮定しよう.すると,当然 ZF において,Tychonoff の定理 を選択公理なしで証明することができる.これは事実2 から ZF において,AC が証明できることを意味する.よって,ZF + \(\lnot\)AC から AC が証明できる.これはZF + \(\lnot\)AC が矛盾することを意味する.ゆえに事実1 からZF が矛盾することが結論される.
また
事実3.
以下の2つは同値
- ZF が矛盾する
- ZFC が矛盾する
から,ZFCも矛盾する.
参考文献

Set Theory (Studies in Logic: Mathematical Logic and Foundations)
- 作者:Kunen, Kenneth
- 発売日: 2011/11/02
- メディア: ペーパーバック
追記(2020/9/18)
どうも「Tychonoff の定理 が選択公理なしで証明された」と主張された方は「ZFC は矛盾している」という信念をお持ちのようである.仮に「ZFC は矛盾している」と仮定すると「ZF が矛盾すること」は事実3 からすみやかに導かれる.つまり,この記事の内容は件の人にはすべて自明であったようである.なんてこったい.